自己破産には、「同時廃止」と「管財事件」という2つのタイプがあります。裁判所に自己破産を申請すると、必ずどちらかのタイプに振り分けられます。

どちらのタイプになるかによって、かかる時間や費用が大きく異なってきますので、自己破産をする人にとっては大きな影響があります。

このページでは、同時廃止と管財事件の違いについて弁護士 楠 洋一郎が解説しています。

【自己破産】同時廃止と管財事件の3つの違い

同時廃止と管財事件の違いは次の3つです。

1.破産管財人の有無

管財事件では、破産者の資産を現金化して債権者に配当するために破産管財人が選任されます。浪費やギャンブルといった深刻な問題がある破産者について、借金を免除してよいのかを判断するために破産管財人が選任されることもあります。

一方、同時廃止では、債権者への配当は一切行われず、破産者に浪費やギャンブルといった深刻な問題もないため、破産管財人は選任されません。

2.手続にかかる時間

管財事件では、破産管財人が配当を行ったり、借金を免除してよいのかを慎重に判断するため、時間がかかります。

同時廃止では、債権者への配当は行われず、破産者にギャンブルなどの深刻な問題もないため、スムーズに手続が進められます。

3.手続にかかる費用

破産管財人の報酬は破産者が用意しなければなりません。そのため、破産管財人がつく管財事件の方がつかない同時廃止よりも費用が高くなります。

具体的には、管財事件の方が同時廃止より、少なくとも20万円は費用が高くなります。

【自己破産】同時廃止と管財事件の割合

東京地裁のデータ(即日面接通信vol.25)によれば、2019年10月の1か月間の破産申立件数は837件で、そのうち同時廃止を希望していたケースが345件、実際に同時廃止になったケースが268件です。

割合でいうと、32%が同時廃止、68%管財事件となります。同時廃止を希望しながら管財事件にふりわけられた事件は22%です。

【自己破産】同時廃止とは?

1.自己破産の2つの手続き

自己破産には「破産」と「免責」の2つの手続があります。「破産」とは破産者の資産を現金化して債権者に公平に配当することです。債権者のための手続といえるでしょう。

一方、「免責」とは破産者の借金を免除する手続きです。破産者のための手続といえるでしょう。

2.同時廃止を一言で言うと

同時廃止とは、破産者が「破産」の費用を用意できないため、破産手続が始まるのと同時に終了するタイプの自己破産です。

3.破産には費用がかかる

破産手続するためには費用がかかります。ここでいう「費用」とは弁護士費用のことではなく、破産手続そのものにかかる費用です。

手続費用のなかで最も優先されるのは、破産管財人への報酬です。

破産管財人は破産手続を進めていく上でのキーパーソンです。破産管財人がいなければ、破産者の資産を現金化して債権者に配当することができません。そのため、破産管財人の報酬は最優先で支払われます。一番の功労者ですので債権者への配当よりも優先されます。

4.費用がないと破産手続を進められない

破産管財人の報酬は税金から出るわけではなく、破産者が自分で用意しなければいけません。

もし破産手続がスタートした時点で、破産者にお金がなく、破産管財人の報酬を用意できなければ、破産管財人をつけることができず、破産を進めていくことができません。

そのため、破産手続はスタートと同時に終了してしまいます。これが同時廃止です。

5.同時廃止は免責のみ

自己破産には「破産」と「免責」の2つの手続きがありますが、破産管財人の報酬を準備できなければ、「破産」を進めることはできませんので、破産手続きは開始と同時に終了します。

そのため、同時廃止では、免責の手続のみ行われます。

【自己破産】管財事件とは?

1.管財事件を一言で言うと

管財事件とは、破産管財人がつくタイプの自己破産です。

2.破産管財人がつく2つのケース

破産者が裁判所で定められた基準以上の財産を持っているときには、裁判所によって破産管財人が選任されます。破産管財人は破産者の財産を現金化して債権者に配当します。

また、たとえ基準以上の財産を持っていなかったとしても、浪費やギャンブルなど免責について問題がありそうなケースでは、免責してよいのかどうかを慎重に判断するために、破産管財人が選任されます。

この場合は、破産管財人の報酬は家族や親族に払ってもらうことになるでしょう。

3.通常管財と少額管財

管財事件はさらに通常管財と少額管財に分けられます。

管財事件=通常管財+少額管財

通常管財と少額管財の一番の違いは、「引継予納金」(ひきつぎよのうきん)とよばれる破産管財人の報酬です。東京地裁では、通常管財の引継予納金は最低50万円、少額管財の引継予納金は20万円となっています。

少額管財の方が、通常管財より引継予納金が安く手続もシンプルで、通常管財にくらべ短期間で終わります。東京地裁では管財事件の約95%が少額管財です。

このサイトでも特にことわりがない限り、少額管財を「管財事件」として説明しています。

【自己破産】同時廃止と管財事件の違いまとめ

同時廃止と管財事件(少額管財)の違いは次のとおりです。

 破産管財人申立てから免責までの期間引継予納金債権者集会
同時廃止なし2,3カ月なしなし
管財事件 (少額管財)あり3,4カ月20万円あり

管財事件(少額管財)では、破産管財人が選任されるため、引継予納金として20万円を準備しないといけません。この20万円は弁護士が破産者から預かり、裁判所や破産管財人の口座に振り込みます。

ただ、自己破産を希望する人にとって20万円は大金です。そこで、20万円を一括で用意できない人のために、東京地裁を含む多くの裁判所では、毎月5万円×4回の分割払いが認められています。そのため、自己破産を申し立てる時点で20万円を持っていなくても大丈夫です。

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