「自己破産をすれば全財産が没収される」-このように考えて自己破産をためらっている方もいるかもしれません。
でもご安心ください。自己破産をしても一定の財産は手元に残しておけます。このような財産を「自由財産」といいます。
このページでは弁護士 楠 洋一郎がどのような財産が自由財産になるのか、自由財産のポイントをふまえてなるべく多くの財産を手元に残す方法を解説しています。
目次
【自己破産】自由財産とは?
1.破産者の財産は債権者へ
自己破産をすると借金が免除されます。借金が免除されることによって最も困るのはお金を貸していた債権者です。
債権者の負担を少しでも軽くするために、自己破産の手続きが始まった時点で破産者が持っていた財産は、破産者の手を離れて破産財団に入れられます。それらの財産は破産管財人によって現金化され、債権者へ公平に配当されます。
これによって一部ではありますが、債権者も債権を回収することができます。
2.全財産を没収するのは現実的ではない
破産者の全財産を破産財団に入れてしまうと、破産者は生活していくことができなくなります。
また、少額の財産を破産財団に入れても、現金化するコストがかさみ手続きが長期化するだけで、債権者にとっても破産者にとってもメリットはありません。
3.自由財産とは
そこで、破産者が最低限の生活を営むことができるようにすると共に、管財業務を効率化するために、一定の財産については破産手続がスタートしても、破産者の手元に残しておけるようになっています。このような財産を「自由財産」といいます。
4.自由財産の2つのタイプ
自由財産には、①破産法で定められた自由財産と、②裁判所が独自に定めた自由財産の2つのタイプがあります。
【自己破産】破産法で定められた自由財産
破産法で定められた自由財産は次の4つです。
1.新得財産
2.99万円までの現金
3.法律で差押が禁止された財産
4.破産財団が放棄した財産
以下個別にみていきます。
1.新得財産
新得財産とは、破産手続がスタートした「後に」、破産者が新たに取得した財産です。破産開始後に勤務先から支払われた給料が典型的な新得財産です。
債権者への配当にあてられる財産は、破産手続がスタートした時点で破産者がもっている財産です。その後に破産者が得た財産は、破産財団には属さず破産者が自由に処分することができます。
2.99万円までの現金
99万円までの現金は破産財団には入れられません。そのため、破産者が手元に残しておき自由に使うことができます。99万円まで手元に残せるのは現金で保管している場合に限られます。銀行に預金している場合は、残高が20万円を超えると、全額が破産財団に入れられてしまいますので注意が必要です。
3.法律で差押が禁止されている財産
自己破産の手続がスタートすると、破産者は自分の財産を自由に処分できなくなります。その意味で、自己破産は包括的な差押えといえます。そのため、法律で差し押さえが禁止されている財産も自由財産になります。
法律で差押が禁止されている財産の例として、生活に必要な家財道具、給料の4分の3、生活保護の受給権、被災者の生活再建支援金などがあります。
4.破産財団が放棄した財産
いったん破産財団に入れられても、破産管財人が、早期にそれなりの金額で現金化できないと判断した財産は、破産財団から放棄されて破産者の手元に戻ってきます。これも自由財産の一種です。
車など破産者にとってどうしても必要な財産は、破産者や家族が破産管財人にお金を払って買い取り、破産財団から放棄してもらうこともあります。
【自己破産】裁判所が認めている自由財産
破産法で定められた自由財産は、①新得財産、②99万円までの現金、③差押禁止財産、④破産財団が放棄した財産の4つです。
これらに加えて、破産者の生活を保護し管財業務を効率化するため、裁判所が独自に自由財産としているものがあります。
全国の裁判所では、破産法上の自由財産に加え、次の7種類の自由財産が認められています。
①残高が20万円以下の預貯金 |
②見込額が20万円以下の生命保険の解約返戻金 |
③処分の見込額が20万円以下の自動車 |
④居住している家屋の敷金債権 |
⑤電話加入権 |
⑥支給見込額の8分の1相当額が20万円以下である退職金債権 |
⑦支給見込額の8分の1相当額が20万円を超える退職金債権の8分の7 |
これらは破産法で認められた自由財産ではありませんが、裁判所が自由財産の範囲を拡張(破産法34条)したものとして取り扱われています。
【自己破産】自由財産のポイントをおさえて最大限の財産を残す方法
破産者は、全国どこの裁判所に破産を申し立てても、99万円以下の現金については手元に残しておけます。現金が99万円を超える場合は、超えた部分のみ破産財団に入れられます。
一方、銀行預金については、20万円を超えていれば、全部が破産財団に入れられてしまいます。例えば、預金残高が30万円の場合、30万円-20万円=10万円については手元に残せるというわけではありません。この場合、30万円全額が破産財団に入れられてしまいます。
20万円以上か否かは、「全ての預金の合計額」によって判断されます。例えば、破産者が5つの口座をもっており、それぞれ5万円の残高がある場合は、単体でみると20万円以下ですが、合計すると20万円を超えていますので、25万円全部が破産財団に入れられてしまいます。
そのため、20万円以上の預貯金がある場合は、破産申立てをする前に現金化しておいた方がよいです。
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