個人事業主の自己破産-管財事件が原則

自己破産には、破産管財人がつく管財事件と破産管財人のつかない同時廃止の2つのタイプがあります。

管財事件になると、破産管財人に報酬(20万円)を支払う必要があるため、同時廃止より、手続き費用が20万円高くなります。

個人事業主が自己破産をする場合は、原則として管財事件になります。次の点について、破産管財人に調査させる必要があるためです。

①売掛金や買掛金

②店の賃貸借契約や敷金

③什器・備品

④在庫品

⑤従業員への給与の支払い状況

ただし、個人事業主といっても、実態は雇われ店長で、生活上の借入れしかしていないケースでは、例外的に同時廃止になることもあります。このような事情がある場合は、即日面接において、弁護士が同時廃止にするよう裁判官と交渉します。

自己破産の即日面接とは?同時廃止にするためのコツを解説

個人事業主の自己破産-店はどうなる?

1.破産手続が始まった時点で店を借りている場合

破産手続がスタートした後も店を借り続けていると、賃料が増えていき、債権者への配当が少なくなってしまいます。

そのため、破産管財人は、できるだけ早く店の賃貸借契約を解除します。個人事業主が自己破産をするのは、事業がうまくいっていないためだと思われますので、賃貸借契約を解除されるのはやむを得ないといえるでしょう。

ただ、事業そのものは順調であるものの、ギャンブルや浪費など個人的な原因で支払い不能になった場合は、解約せずに同じ店で営業を続けられることもあります。そのような事情がある場合は、解約しないですむよう弁護士が破産管財人と交渉します。

なお、自己破産をしても居住用の家やマンションの賃貸借契約は解除する必要はありません。家賃を払っている限りこれまで通り住み続けることができます。

2.破産手続が始まった時点で店を解約しているケース

①店の明渡しが終わっていないとき

破産管財人は、店の中にある在庫品を業者に買い取ってもらったりして処分します。売却して得たお金は破産財団に入れられ、債権者への配当に回されます。

店の什器備品は売却されることが多いですが、事業の運営に必要不可欠と判断されれば、自由財産として手元に残しておけることもあります。

自由財産とは?破産しても手元に残せる財産まとめ

リース物件については、破産管財人がリース会社に連絡を入れて引き取ってもらいます。

②店の明渡しが終わっているとき

原状回復が終わっていれば、破産管財人が賃貸人に対して、敷金の返還を請求します。戻ってきた敷金は、破産財団に入れられ債権者への配当に回されます。

飲食店など店の種類によっては、原状回復費用が多額になることがありますが、破産管財人が敷金の範囲で精算するよう賃貸人と交渉して合意することが多いです。

もし敷金だけで精算しきれなければ、未精算の原状回復費用は破産債権となります。

個人事業主の自己破産-従業員はどうなる

1.自己破産しただけでは雇用契約は終了しない

自己破産を申し立てても、それだけで従業員との雇用契約が終了するわけではありません。多くのケースでは自己破産に伴い事業も廃業することになりますが、その場合は、従業員を解雇するか、自主退職してもらう必要があります。

2.従業員の給与のあつかい

従業員の未払い給与は以下のように扱われます。

①破産手続が始まる前3か月間の給料⇒財団債権になる  
②それ以外の給料→優先的破産債権になる

【解説】

自己破産する人にとって、主な債務は銀行やサラ金業者からの借金だと思われます。これらの一般的な借金を「破産債権」といいます。破産債権は、破産手続のルールにしたがって、「配当」という形で債権者に返済されます。配当の原資となるのは、「自己破産を開始した時点で」破産者が持っている財産です。配当で返しきれない部分は免責されることになります。

これに対して、財団債権は、破産手続のルールによることなく、破産者が随時弁済しなければいけません。

代表的な財団債権は、破産管財人に支払う報酬や一部の税金です。これらは配当によって返済するわけではないため、返済原資は自己破産が始まった時点での財産に限られません。

従業員の給料のうち、破産手続が始まる前3か月間の給料については、財団債権とされます。

そのため、この部分については、自己破産が始まった後に得た財産も支払いに回す必要がありますし、未払い部分が免責されることもありません。

その他の給料は破産債権になりますので、破産手続が始まった時点での財産の中から、配当によって支払われます。

ただし、従業員を保護するために、一般の破産債権よりも優先的に配当されます(優先的破産債権)。また、配当しても未払いが残っている場合は免責されません。

3.従業員の退職金のあつかい

破産手続が終わる前に退職した従業員について、退職金の未払いがあった場合は、次の①と②を比べて、金額が多い方がまでが財団債権になります。その他の部分は優先的破産債権になります。

①退職前3か月間の給料の総額

②破産手続が始まる前3か月間の給料の総額

4.労働者健康福祉機構の未払賃金立替払制度について

個人事業主が自己破産をした場合、次の4つの条件を満たせば、従業員は、未払いの給料や退職金の一部を労働者健康福祉機構から立替払いしてもらうことができます。

【立替払いの条件】

①個人事業主が1年以上にわたって労災保険の適用事業を営んでいたこと

②自己破産を申し立てた日の6か月前から2年の期間内に従業員が退職したこと

③退職日の6ヶ月前の日から立替払い請求の前日までの間に支払期限が到来していること

④破産手続が始まった後、2年以内に立替払いの請求をしたこと

*これらの条件に該当しても未払いの総額が2万円未満の場合は、立替払いの対象外です。

*替払いの対象となるのは、手取り金額ではなく税引き前の額面金額です。

破産者や弁護士が従業員に対して、立替払い制度の利用をすすめ、必要書類の作成などをサポートします。

労働者健康福祉機構が、未払い給与を立替払いした場合、債権者が従業員から労働者健康福祉機構に入れ替わります。給与についても退職金についても、財団債権であった部分は財団債権として、優先的破産債権であった部分は優先的破産債権として、そのまま機構が受けつぎます。

そのため、個人事業主は立替払いされた金額を機構に支払う必要があります。

立替払い制度を利用するためには、破産管財人に証明書を作成してもらう必要がありますが、個人事業主については、自己破産の申し立て前に立替払い制度を利用できるケースもあります。

詳細は弁護士までご相談ください。